①はじめに 日本語習得のコツとは
「もっと上手に日本語を話せるようになりたい、でも上手くいかない」
「勉強しているのに頭に入らない」
「知っているつもりの言葉が、実際に話せなくて悔しい」
「日本人の話すスピードが速すぎて、全然聞き取れない」
皆さんはこのような悩みをお持ちではありませんか?
残念ながら、語学習得に魔法の粉はありません。
ですから、「3ヶ月でペラペラになる」等の謳い文句で売っている教材や学校については、安易に飛びつかずに、まず疑ってみたほうがいいかもしれません。
私は「日本語が上手になりたいんですが、どうしたらいいですか?」と聞かれることはしょっちゅうありますが、人によって様々なアプローチ方法があり一言ではアドバイスできません。それでも「是非これをやってみてほしい」と思うことがいくつかありますので、私から皆さんへアドバイスをしたいと思います。
②一番大切なのはモチベーション
自分のモチベーションについて考えてみる
語学をマスターするのに大切なのは、間違いなく「モチベーション」です。残念ながら、モチベーションとは一人一人異なり、また自発的に起こるものですから、私が生徒さんのモチベーションを作ることはできません。しかし、私がお願いして、生徒さんに整理して考えてみていただくことはできます。
日本語ができたら、一体自分にとって「どんなことができる」になるのでしょう?
あなたは「どんな人とどんな話がしたい」ですか?
日本語を使って話したいことがあるということが一番大切なことです。
日本語はコミュニケーションツールに過ぎません。目的意識をしっかり持ちましょう。
私のトライアルレッスンでは、まずこの部分を明確にしてからスタートします。
高尚なモチベーションじゃなくてもいい
・日本人の友だちともっと話がしたい。
・日本人のガールフレンド/ボーイフレンドがほしい。
・好きなマンガを日本語のまま読みたい。
・レストランでお店の人と食べ物の話がしたい。
例えば、上記のようなモチベーションで十分です。日本語ができたら「こんなことができる」というイメージを持ち、楽しめて、がんばれば達成できそうなモチベーションで構いません。もちろん高い目標を持つことは決して悪いことではありませんが、「当面」の目標と、「最終的な」目標は、分けて考えるとベストです。
モチベーションに見合った目標を立てよう
例えば「マンガを日本語のまま読みたい」というモチベーションの場合は、意外と難しい表現や語彙の理解が必要となりますが、「レストランでお店の人と食べ物の話がしたい」というモチベーションの場合、JLPT N2に合格したいというような高い目標を立てる必要はありません。
例えば、初級レベルの方が、突然「今年の12月にN2に合格したい」とおっしゃったことがありますが、「どうしてN2がほしいんですか?」と聞いてみると、「友だちがN2を持っているので自分もほしい」という答えが返ってきました。仕事で日本語を使わなければならないとか、就職、転職のために必要であれば、全力で合格を勝ち取ることが先決ですが、「友だちが持っているから」という理由で合格を目指すと、そのうちモチベーションが落ちます。そして、うまくいかなかった時には「友だちは合格したのに、自分は落ちた」という悪いセルフイメージが残るだけになってしまいます。現実的な目標を確実にクリアし、少しずつ目標レベルを上げながら、モチベーションもキープし続けることをお勧めします。
悔しい体験は全部モチベーションに変えよう
・日本で日本語が話せないともどかしい。
・母国語で話せば簡単なことなのに、自分がバカに見られてしまうような気がする。
・友だちが日本語で楽しそうにしているのに、自分だけ黙って聞いているのはつまらない。
日本語を学習している人みんなが感じることです。ひたすら悔しいという経験を重ねても、それをモチベーションに変えれば、いつしか「楽しい」に変わる時が来ます。「楽しい」に変わるまでに簡単に挫折しないことが重要です。簡単に挫折しないためには、変なプライドを捨てること。子どもの時、学校の成績が良かった人ほど、大人になってからの語学習得に躓きを感じるパターンはよくあります。プライドを捨てて、わからないことは恥ずかしがらずどんどん聞いて覚えることができれば、挫折しにくいメンタルを養うことができます。
③継続は力なり
モチベーションを保つことは一番大切なことですが、どんな人でも、モチベーションが落ちる時期がやってきます。例えば、「勉強しているのに覚えられない」とか、「家庭事情の変化でそれどころではない」、また「仕事が忙しくて時間が取れない」等、理由は様々ですが、学び続けることが困難に感じてしまうことがあるでしょう。
そんな時は、なんとかレッスンを続ける状態になっても構わないと思います。完全にレッスンをやめてしまうと、大人が忘れるスピードは想像以上に速いので、せっかく積み上げたものが簡単にゼロになってしまうからです。私はやめようとする生徒さんを引き留めることはめったにありませんが、「本当にもったいないな」と思います。自分のできる範囲でペースを落とし、学ぶ環境だけはとりあえずキープすることをお勧めします。
④インプットとアウトプットのバランス
語学におけるインプットとは
→「自分に情報を入れる作業」つまり、リスニング(YouTubeや映画を見る等)、リーディング(ニュース、教科書を読む)、漢字を覚える等です。
語学におけるアウトプットとは
→「自分から情報を出す作業」つまり、シャドーイングしたり、覚えた日本語を実際に会話で使ってみることです。
私とのレッスンではアウトプットに重点を置くことになります。せっかく対面レッスンをお取りいただいている以上、インタラクティブな活動をしなければ意味がありません。ただ週に1度か2度レッスンをするだけでは、インプットの絶対量が不足してしまいます。必要なインプットは必ずこちらから提案しますので、できるだけ家でもインプットの時間をとるようにすることをお勧めします。
初めは(インプット):(アウトプット)を9:1ぐらいから始めて、中上級になるにつれ6:4ぐらいまで増やしていくとよいでしょう。
⑤机上の勉強はやめてポジティブな学びを
「学ぶこと」と「勉強する」ことは、全く別物です。多くの人は「学ぶこと=勉強する」だと考えていますが、実は違います。「勉強すること」は学校でやったように教科書を開いて、黒板をノートに写したり、テストのために地道に単語を覚えたりすることで、我慢が必要で受動的な行為です。それに対して「学ぶこと」は主体的な行為で、夢中になって楽しみながら習得するものです。
大人の学習者は、できるだけ「学ぶこと」を意識すべきです。我慢して嫌なことを続けるのは避け、自分が興味のある範囲になるべくフォーカスすることをお勧めします。
⑥異文化理解と言語の関係
語学の習得には、背景となる文化の理解が不可欠です。
例えば、英語の先生をしている外国人が自己紹介したときに「私は英語の先生です。」と言ったとします。日本人なら、そこでちょっとした違和感を覚えます。私がそこで「自分の職業を話すときは謙遜した表現で「教師」といいます。」とお教えすると、「どうして日本語には「教師」と「先生」と二種類あるのか。どうして自分の職業を謙遜しなければいけないのか。」と納得できないご様子でした。
日本には自分を謙遜して相手を立てる文化があることから理解しなければ、前に進むことができません。日本の文化が背景にあっての言語ですので、どうしてそのような表現をするのか?と背景を理解することは、言語習得の上で大きな鍵となります。母国の文化と違うことで戸惑いや、軽い怒りさえ覚えることもあるかもしれませんが、言語を話すことは文化を理解することに等しいのです。正直に申し上げると、ひっかかることがあっても「とりあえず受け入れる」姿勢があるほうが言語的には上達します。
⑦語彙力をあなどるな
「たかが単語、されど単語」です。たくさん教科書で勉強したし、簡単なことなら日本語でも伝えられると自信を持ちかけた時に限って、「単語がわからないから全然聞き取れない」「単語がわからないから全然話せない」という事態に陥ります。単語を知っていれば、最悪でも「きゅうきゅうしゃ!おねがい!」「かじ!しょうぼうしゃ!おねがい!」と言えば伝わりますが、肝心の「救急車」「火事」「消防車」という単語を知らなければお手上げです。緊急時にスマートフォンで検索する暇はありません。
何から手をつけていいかわからない時には、単語を覚えることを最優先しましょう。
⑧スマートフォンのアプリをフル活用しよう
では、漢字、単語、表現はどのようにして覚えたらよいのでしょうか。教科書に書き込んだり、紙に漢字を何度も書くという方法もありますが、いささか旧時代的と言えるかもしれません。そういった昔からある勉強の方法が自分に向いていると思う方は、否定はしませんので、それを続けてください。しかし、今はスマートフォンのアプリをダウンロードして活用される方が増えていますし、私もそのやり方を推奨します。私のレッスンではQuizletというアプリを使って、レッスン中に私が必要な単語を直接インプットしています。私の生徒さんは私がインプットしたデータをダウンロードして、新たに自分で単語を追加したり、注釈を加えて覚えています。Quizlet以外に、漢字を覚えるためのアプリ、文字をなぞり書きするアプリ、JLPTに特化したアプリ等、有効な多くのアプリがあります。これはいいな、と思うものがあったら、ダウンロードしてまず使ってみましょう。ただし、沢山のアプリをダウンロードしすぎて、結局一つも使いこなしていないというパターンは最悪です。忙しい現代人にとってお勧めなのは、よく使うアプリをいくつか絞り込んで、自分用にカスタマイズして、隙間時間にこまめに覚えるやり方です。
⑨レッスンではコミュニカティブな活動に重点を置く
20世紀終盤から、語学レッスンの主流は「コミュニケーションに比重を置く方法」に変化しています。つまり、テストのために座学で勉強するのではなく、実際の場面に即したロールプレイ・タスク遂行練習・ディスカッションをしながら、実際に使える表現を口頭で練習する方法です。このコミュニカティブアプローチという方法の利点は、学習したことを現実のコミュニケーションに応用しやすいことですが、その反面、言語知識の体系的な学習がしにくいという欠点もあります。一週間に受けられるレッスン時間数に限りのある方は特に、自分一人でもできる作業(単語を覚える等)については自分で学習し、レッスンでは、講師とのコミュニケーションの中で、覚えた表現や単語を使って、自分自身のことについて話すように心がけてください。
⑩語学学習に必要なのは絶対時間数
実は語学習得には、明らかな科学的データとして、「その言語にどのぐらい接したかの絶対時間数」に関係があります。1週間に2回、ゴルフのレッスンを受けただけの人が、いきなりプロゴルファーになれるわけがないのと同じように、1週間に2回、日本語レッスンを受けただけで、ペラペラになれるはずがありません。ビジネスパーソンが忙しいのは十分承知していますが、モチベーションをキープして目標を達成するには、「どうにかして時間を作る」必要があります。その方法として「宿題を出す」ことは私からもできますが、どうしても受動的な学習になります。自発的に楽しめるような学習の工夫、つまり好きな日本の音楽を日本語で理解する、気に入った映画を繰り返し見る等の工夫をしてください。
⑪今、やるしかない
聞きたくないかも知れませんが、語学の習得は若ければ若いほど有利なのは事実です。子どもは聴いた音をすぐに繰り返し、スポンジのように覚えることができますが、大人の場合は母国語が邪魔をして間違いを繰り返したり、母国語にない音を聞き分けることが難しくなります。では、今から始めてももう遅いのでしょうか?決してそんなことはありません。むしろ「今すぐに始めることが大切」です。今この瞬間が一番人生で若い時です。明日になればもっと記憶力や理解力が落ちます。今すぐ初めて、それを継続し続けることで、これまで学習したことは全て自分の糧になり、少しずつでも積み上げることができます。語学以前の問題ですが、「自分には無理だ」と思った瞬間に全てが終わりです。
⑫おわりに
細かい勉強法はさておき、語学学習に必要なのは「モチベーション」「目標」「ポジティブな学び」に集約されます。私はこれらを整理して提言し、皆さんの自発的な学びを手助けすることができます。どうぞ躊躇せずにバッターボックスに立って、大きくバットを振ってみてください。空振りでもいいのです。バッターボックスに立つ回数が多いほど、経験値が上がり、自分に自信が持てるようになります。文法や表現は私と一緒に学んで、ぜひぜひ日本人と日本語で話す機会をたくさん作って、自信をつけてください。